人生を語らず(94) 無 題

僕はしがないフォーク酒場の店主 店を始めて2年半がすぎた

おだてられたり誉められたり 批判されたり罵られたり いろんなことがあったけど

今自分をみつめてただ一言 「お前、ずいぶん傲慢になったな」

 

ドアが開くたびドキドキし「いらっしゃいませ」の声が上ずっていた

ビールを注ぐ手は震え 何もかもがぎこちなく「やるんじゃなかったな」なんて思ったりもした

すっかり慣れきった今の自分にこう思う 「お前、ずいぶん傲慢になったな」

 

 

親切なお客さんたちが次々あらわれ いろいろ手を差し伸べてくれた

ホームページを立ち上げてくれた人もいた 秘蔵品を寄贈してくれた人もいた

大がかりな照明工事をしてくれた人さえいたし そして何より足繁く通ってくれている

それこそ数えきれないくらいお世話になっているのに 「お前、近頃ずいぶん傲慢になったな」

 

 

自分ひとりじゃ何もできないくせに 自分ひとりでやったような顔をして

思い通りにいかないからって大げさに拗ねてみたり 人の好意を踏みにじったり

今自分をみつめて思う 「お前、ずいぶん傲慢になったな」

 

僕はしがないフォーク酒場の店主 店を始めて2年半がすぎた

出会いがあり別れがあって泣いたり笑ったりのくり返し

今自分をみつめてただ一言 「お前、ずいぶん傲慢になったな」

 

 

償いきれない罪を背負って ガラス越しの長野駅が涙でかすむ