人生を語らず(112) 好きな漢字でわかること

 私が漢字を1字選ぶとしたらそれはやっぱり「愛」だわ

 私だけを見てね そして 私だけを愛して

   俺が漢字を1字選ぶとしたらそれはたぶん「夢」だろうな

   生きていく意味ってそこにあるんだと思う

 いつでもどこでも私のことを一番に考えてほしいの 

 何をするにも私を最優先にしてね

   頼みがある 俺といっしょに同じ夢みてくれないか

   二人ならきっとうまくいくと思えるんだよ

 

     歯車が噛み合わないまま若い二人の愛の暮らしが始まる

     気持ちのズレに気づかないのか フタをしているのか

    

 あなた最近 ため息ばかりついているのね

 私といても少しも楽しそうじゃない

   ちょっと外をぶらついて風にあたって来るよ

   退屈で手持ちぶさたで息がつまりそう

 そういう言い方ってひどいんじゃないの

 子供のことだって全部私に押し付けて

   俺、家族のために一生懸命働いているじゃない

   たまには息抜きしたっていいだろ

 

     些細ないさかいがやがて二人の間に小さな溝をつくった

     急いで補修するのか それとも放っておくのか

 

 なんだか二人で一緒にいる意味がないよね、私たち

 あなたは私にも子供にも全く無関心だもの

  こんなはずじゃなかった やりたいこと何一つできないよ

  俺、このまま歳とっていくだけなのかな

 もう夢みるような歳でも立場でもないでしょ、あなた

 子供だってどんどん大きくなっていくんだよ

  そんなことわかっているよ、いろいろ言わないでくれ

  俺だってこのジレンマと必死に闘っているんだ

 

     この二人がその後どうなったのか、何も聞いていない

     今度の日曜にでも訪ねてみようか 怖い気もするが

 

[解 説] ふと、好きな漢字を1字選ぶとしたら、というテーマが頭をかずめ1行書き出してみました。全体をどうまとめるのか、という見通しも立てず思いつくままに筆を進めてみたところ、このような詩になってしまいました。この二人がどうなったのか、その結果を読む人それぞれに委ねてしまいました。