マスターの独り言(24)恐怖の体験

 完全に死ぬかと思いました。 せいぜい1分にも満たない瞬時の出来事だったと思うのですが、今思い出しても鳥肌がたちます。40年も昔の話しです。

 仲間と連れ立って善光寺へ行った帰りのこと。当時の僕たちの交通手段と言ったら、そうです自転車です。急な坂道にさしかかりました。みんな颯爽と、歓声を上げながら一気に下り始めました。さてブレーキを、と思った瞬間です。「わぁー、ブレーキがきかない!」 自転車のスピードはどんどん加速。握れど握れどブレーキはきかない。 「ど、どうしよう転ぼうか、転んだ方がケガは少ないかも・・・」 などと思っている間もスピードは増す!転んでいる暇もない。転ぶ勇気もない。坂の下に横切るように道路が見える。 「ト、トラックが走ってる!このまま行ったら車に衝突か!」。 僕の恐怖心はいやおうにもかき立てられる。道路の向こうの突き当たりに家が見える。真正面はブロック塀。 「と、とにかく車が横切らないことを祈って、あのブロック塀に直角にぶつかるしかない。角度がずれたら一巻のおしまいだぞ」 と言い聞かせてハンドルを強く握り直しました。そうして身構えて僕は成り行きに任せました。ラッキーでした。車はありませんでした。

 塀に激突!後輪が頭の上に来る位もち上がったような気がしました。後輪が元に戻り、一瞬、まさに一瞬直立した後、静かに倒れこみました。僕は振り落とされもせず、塀に叩きつけられることもなく、この恐怖の出来事から生還、そう生還したのです。

 集まって来た仲間が笑いながら言う。「小林、何ふざけてんだよ」。 お、おい!俺がどれだけ怖いめに遭ったと思ってんだ。前輪がフレームにめり込んだため乗れなくなった自転車を引きずりながら僕はその一部始終を仲間に話して聞かせるのでした。