マスターの独り言(58)青春の1頁

一篇のマンガが僕の青春の幕開けだったような気がします。例によって「永島 慎二」なのですが、昭和47年2月、『少年サンデー』 に掲載された 『ラ・ジョローナ』 という短編です。昭和47年2月と言えば、高校受験を一ヶ月後に控えた時期でした。高校をやめて旅をする、高校に行っていれば2年生だという若者が主人公なのですが、まず冒頭、道の脇で腰をおろしラジオを聞くシーン、背景に歌詞の一節が書かれています。それがジョン・レノンの 『マザー』 の訳詩だと知ったのは高校に入学してほどなくしてからのことでした。さてこの若者は、知り合った人にさらにその人の知り合いを紹介してもらいながら旅を続けるわけですが、あるところで一人の女性と出会います。そこに彼は、彼の居場所を探し当てたと思われました。しかし彼は1年後に帰ってくると約束をして、旅をすることを選びます。旅を続けるうち、彼女のことはすっかり忘れてしまうのですが、ある日、不意に彼女との約束を思い出し、急いで戻ります。しかし彼女は寂しさに耐えきれずすでに川に身を投げた後でした。そしてラスト、泣き伏すシーンの背景に書かれていたのは良寛和尚の詩でした。次のようなものです。

                 独りで生まれ 独りで死に 独りで坐り 独りで思う

     そもそもの初め それは知らぬ    いよいよの終わり それも知らぬ

     展転するもの すべては空      空の流れの中に しばらく我れがいる

     そんなふうに わしは悟って      こころゆったり まかせている

受験が終わると待ちわびたように僕は旅にでました。初めてのひとり旅、行き先は伊豆半島、石廊崎でした。まるでマンガの主人公にでもなったような気分で長い時間、ただただ海を眺めていました。

追記 そして今でも僕は新潟方面をドライブすると、決まって良寛和尚の終の棲家、出雲崎に立ち寄るのです。