人生を語らず(97) 旅に出たくなる地図

 その頃はずっと旅をしていた 目的地があったわけじゃない

 山陰道をひた走りたどり着いた丹後半島伊根の舟屋

 これからどうする?

 どうしようかねぇ

 もっと真剣にこれからのこと話さなきゃいけないっていうのに

 はずまない二言三言の短い会話 

 なんだか二人悲しいね寂しいね

 

 その頃はずっと旅をしていた あてもなくただ風まかせ

 鳴門橋を渡り室戸をへてたどり着いた安芸野良時計

 どこから来なすった?

 長野からです

 老婆に答える君の声はいつになく明るく笑みさえ浮かべていた

 それはまた遠いところからまあまあ

 なんだか二人悲しいね寂しいね

 

 その頃はずっと旅をしていた 時間ならたっぷりあったしね

 阿蘇を尻目に耶馬渓をへてたどり着いた青の洞門

 もう帰ろうか

 どっちでもいいよ

 じっと見つめた君の目から一筋涙がこぼれ落ちた

 二人の未来に光はさすの?

 なんだか二人悲しいね寂しいね

[解 説]

 和歌山と沖縄を除いて日本中を旅しました。京都丹後の伊根の舟屋、高知安芸の野良時計、大分耶馬溪青の洞門は特に印象深いところでした。ここをモチーフに何か書けないかと思いました。架空の男女の物語を重ね合わせるアイデアがふと思い浮かびました。この二人がどんな結末を迎えるのか、次は東日本篇で明らかにしようと思います。なおタイトルは、帝国書院から発行されているものでこれも僕のお気に入りの1冊です。借用させていただきました。