人生を語らず(170)奇妙な友人

くまばち

 

 

 

僕と蜂の関わりは深い。小学生にもならない幼い頃、近所の工場跡地でかくれんぼをしていたときのこと。材木が小高く積まれた隙間にいい隠れ場所をみつけた僕は器用にその隙間にカラダを捻りこませた。次の瞬間、全身を刺す痛みに襲われた。何が起こったのか理解できなかった。どうにかこうにかその隙間から抜け出たものの、僕はわんわん泣きわめくほかに手立てがなかった。その隙間は蜂の巣だったのだ。何十匹もの蜂に一斉に襲われたのだからたまったものではない。近所のじいさんの話しでは、その蜂はメバチというらしい。それが正しい名称なのか、いまだにわからないがこれが初体験。

2回目は高校1年。その日の体育は「陸上」で、僕たちはグランド脇の芝生に腰をおろした。すぐ近くのクローバーの群生が目に映り、僕はそちらに移動した。腰をおろした、またもや次の瞬間。臀部に激しい痛みがはしった。そしてまたもや、蜂。臀部は思いのほか腫れてとても体育の授業どころではなかった。

3回目は浪人中。当時僕は350ccのバイクに乗っていた。その日、同じく浪人中のS 君後ろに乗せて「さあ、新潟の海を見にいくぞ」と意気揚々自宅を出た。数キロも行かなかった。なんと蜂が袖口に入り込んだ。激痛。あわてて袖口をバタバタさせると、いやあ、まいりましたね、今度はスズメバチだった。みるみる腕が腫れた。これはいけない、すぐ医者にいかなければ!僕の本能がそう叫んだ。しかし何科に行けばいいんだ?僕が選んだのは骨折やら捻挫でお世話になっていた整形外科だった。それでも順番を越えてすぐ診てくれた。スズメバチ。恐るべし。腫れは4~5日ひかなかった。

そして最後となる4回目は10年前。アルバイトの水道検針で、メーターを探し邪魔になる草木を掻き分けていたとき、やられた。会社に報告すると、すぐ病院へ行ってくれとのこと。大事をとったらしい。労災が適用された。そうそう、蜂をあなどると命取りになる。なんどか刺されるとアレルギー反応をおこして死に至るケースもあるという。

さて、写真の蜂は通称「クマンバチ」。これも大きな蜂だ。このクマンバチが我が家の縁の下に巣をつくっているみたいだ。みたいだ、というのは毎年今頃になると1匹だけ飛んでくる。クマンバチの寿命は知らないけれど、我が家に飛来するこのクマンバチ、僕にはどうしても同一人物(笑)に思えてならない。どうして1匹だけなのだろう?巣があるならもっとたくさんいてもいいと思う。いったい、縁の下に何があるのだろう。我が家に通い始めて3年にはなると思うが、そんなに長く生きられるのだろうか?疑問は尽きない。ともあれこのクマンバチは僕に5回目をもたらさないだろう。なにしろ僕はこのクマンバチ君に奇妙な友情を感じているのだから。