人生を語らず(6)聖母が降りてきた夜

 誕生日の翌日、不思議な夢をみました。詩人の僕は(笑)、少しアレンジして一篇のメルヘンにしてみました。

聖母が降りてきた夜 

あの夜、僕の前に突然 「聖母」 が降りてきた

僕の目を真っ直ぐに見据え

「あなたは悪い子ね」 って言った

僕はたちまち子供になっていくのがわかった

今までの罪を、全部懺悔したいと思った

ひざまづき、そして僕はあの人の胸で泣いた

あの人は僕の髪を撫でながら

「でも大丈夫だからね、あなたは大丈夫だからね」 って

何度も何度もくり返し言っていた

 

安らいだ気分が僕をつつんだ

僕が力をこめてあの人を抱きしめると

あの人も力をこめて返してくれた

「ねぇ、あなたはどこから来たの?」

「ずっと遠いところから来たの」

「ひょっとしたら宇宙の向こう?」

あの人はうなづいた

「ねぇ、キスしてもいい?」

僕たちは唇を重ねた

 

それから どれくらい時間がたったろう

「あなたは大丈夫だからね」

その一言を残してあの人は消えた

 

きっと誰も信じてくれないだろうけど

あの夜、あの人は僕を助けに来てくれた聖母なんだ

僕のことを知っていてくれて、そして僕の窮状を見かねて

そっと救いの手を差し伸べてくれたんだ