人生を語らず(13) ああ、デンマーク

 あんな旅はもう二度とできないだろうな。 会社をやめて店をオープンするまで、たっぷり時間があったので、まさに気の向くまま、足の向くまま、北は北海道から南は鹿児島まで、愛車スバル・プレオ (笑)で駆け回りました。 あの贅沢な時間を手にすることは、もうないでしょう。もちろん店を長期休業にするか閉店でもすれば時間は作れますが、今度はお金がありません。それに店をやめてしまったらどうやって食べていけばいいんでしょう。そんなこんなであのときの旅が、僕の人生最大の旅ということになるのでしょう。

 しかし僕には死ぬまでにどうしても行きたいところがあります。それは 「デンマーク」 です。どうしてデンマークなの? とは訊かないでください。僕にも理由がわからないのです。鉛色の空と海。短い夏。雨と霧の冬。 きっとそんなところに何かピーンとくるものがあるのでしょう。 昔はデンマークに加えて 「アンコールワット」 があったのですが、こちらの方は近頃めっきり興味が薄れました。テレビでこれでもか、というくらい映像が流れるので、小学生のころ、初めて写真を見たときの驚愕、神秘、ある種の怖さ、そういうのが全くなくなってしまいました。