マスターの独り言(23)ギター物語

 長い放浪の末、マーチンD-45が帰ってきました。長い放浪、というのはリペアに2ヶ月半かかったという意味です。『拓郎age』をオープンするにあたり、このマーチンとギブソンJ-45店の二枚看板にしました。さて、このマーチンには面白いエピソードがあって、今日は恥を覚悟でそれをお話しします。

 もう10年近く前になります。兄貴が 「俺、マーチンD-45持っているぞ」 と自慢気に言うので 「まさか、ウソだろ」 と言うと、リサイクルショップで17万で売っていたので、あり金はたいて買ってきたとのこと。 「兄貴が持っていても宝の持ち腐れ。25万で買ってやるぞ」 というと 「よし、売った!」。 なんと見事な兄弟愛。ところが弾く機会もなく長らく押し入れの中で眠ることになりました。

 『拓郎age』構想が固まり始めた頃、押入れから引っ張り出しようやく日の目を見たマーチンD-45は、なんとギターに触ったこともない○○の練習用でした。「え~っ!」ですよね。もとよりギターに関するウンチクなど少しも持ち合わせない僕だから平気でそんなことが出来たのでしょう。

 『拓郎age』のステージに必要な楽器や機材の調達は古い付き合いのM楽器に頼んだのですが、担当のK氏、マーチンD-45を見たまま眼が点になっている。 「どうしたの?」 と訊くと、「こ、このマーチン、ウチの店で300万で、う、売れますよ」 声が上ずっている。今度は僕の眼が点だ。「え~っ、ま、まさか!」。 「これハカランダですよ」 「そんなこと言われてもワカランダ」。

 とにかく価値のあるものらしい。僕に分からないのは、17万で売ったリサイクルショップ? いやいや違う、リサイクルショップに持ち込んだ所有者だ。このマーチンD-45に一体どんなドラマが秘められているのだろう。

追記 「300万で売れるらしいぞ」と兄貴に話したときのこと。「俺、売った覚えなんかないぞ。お前が勝手に持って行ったんだろう」 いやはやなんとも素晴らしき兄弟愛。