人生を語らず(98)旅に出たくなる地図Ⅱ

 その頃はずっと旅をしていた

 青函フェリーを降りて やっぱり函館の夜景ははずせないよね

 君は感嘆の声をあげる

 ほんのちょっとしたいさかいから 

 口を閉ざしたまま 沈黙の時間が流れた

 ふて腐れて眠ったふりをしていた君が本当に眠ってしまったので

 僕は闇の中 夜を徹して車を飛ばした

 君が眼をさましたときはもう札幌

 機嫌なおったかい? 

 おなか空いた

 車の中 スーパーで仕入れた粗末な朝食

 なんだか二人悲しいね寂しいね

 

 その頃はずっと旅をしていた

 日本海は夕陽がきれいだね ここまで来たら男鹿半島入道崎

 風が強くて歩くこともままならない

 波がしぶきをあげて二人を襲う

 こんな日は早いところホテルをさがして

 一風呂あびて海の幸に舌鼓といきたいけれど

 ごめん そんな贅沢はできないんだ わかるだろ

 計画もなければ 予定もない

 まるで漂流者みたいだね

 楽しいかい?

 うん まあね

 ちっとも楽しそうに見えないぜ

 なんだか二人悲しいね寂しいね

 

 その頃はずっと旅をしていた

 東京西新宿十二社 はるか昔僕が住んでいた町

 木造アパートは跡形もなく

 5階建てマンションに様変わり

 それは当然のことだろう あれから30年たっているんだ

 そんな昔のことも まるで昨日のことのようで

 光陰矢の如し 感無量

 ここにいたんだ?

 遠い昔の話さ

 今度は君の思い出の場所訪ねよう

 なんだか二人悲しいね寂しいね

 

 その頃はずっと旅をしていた

 ここが犬吠埼かぁ どうしても一度来たかったんだよね

 太平洋といえば足摺岬よかったよね

 海はいつ見てもいいやぁ

 君ははるか彼方に眼をやりながら 振り向きもせずにうなづいた

 やがて君はポツンと切り出した

 その眼は相変わらず海をみたままで

 もうダメかもしれない

 えっ そうなの?

 心の変化を見抜けなかったよ

 なんだか二人悲しいね寂しいね